2023/02/06 18:18


ハモン・セラーノができるまで

スペイン人は、年間に4kgの生ハムを食べるといわれています。
 しかしスペインも核家族化が進み、家庭で骨付き生ハムを1本消費する家庭は少なくなってきました。それでも田舎の大家族の家では、今でも台所の生ハムホルダーに骨付きのハモン・セラーノが置かれています。街へ出かけてバルへ行けば、まずは生ハムとビールやワイン、家庭でも食事の前のアペリティフにハモン・セラーノやチョリソが供されます。 

子供たちのおやつやお昼にも、ハモン・セラーノを挟んだボカディージョ(ハードタイプのパンを使ったサンドイッチ)が喜ばれます。日本人にとっての、おにぎりのようなものでしょうか。 ハモン・セラーノは、それだけスペイン人の生活に溶け込んだ食材なのです。

ハモン・セラーノとは“山のハム“という意味

もともと保存食として、イベリア半島ではローマ時代から作られていたといわれています。標高が高く、夏と冬、昼と夜の温度差が激しくて乾燥したイベリア半島の山間部。ハモン・セラーノの製造には非常に適した気候条件を備えた地域では、現在のように人工的に温度・湿度コントロールしなくても、冬の寒さと夏の暑さ、窓の開け閉めによる湿度調整のみでハモン・セラーノを作っていました。

冬になると、家庭で飼育していた豚を屠畜して、各部位に分け、4本の脚は生ハムに、その他の肉を使ってチョリソやモルコンと呼ばれる、少し大きめで材料もぜいたくに使った腸詰めを作って、納屋で乾燥・熟成させて保存食を作ります。この行事はマタンサと呼ばれて、現在でも田舎の村で行われています。

それでは、このハモン・セラーノは、現在はどのように製造されているのでしょうか。 ハモン・セラーノの原料となるのは、主にランドレース種とデュロック種との交配種である豚の後足です。日本向けに認可を受けた屠畜場で処理された豚は、同じく許可を受けたカッティング工場でそれぞれの部位に分けて整形されます。

解体され後脚を切り離して、それを整形したあとは、“サラード”と呼ばれる塩漬けの工程です。使用する塩は自然海塩、この塩で後脚全体を覆います。

塩漬けにする時間の目安は、肉の重さ1kgに対して1日。マエストロ・ハモネロと呼ばれる専門職の技術者が、温度、湿度、時間などの微妙な調整を行っていきます。

塩漬けが終わると、表面についている塩を洗い流す作業です。これには水圧を利用し、更に電動のブラシを用いて行います。

塩漬けのあとは、“ポス・サラード”と呼ばれる工程です。この期間に、塩分が肉の中まで浸透しでゆきます。大きさにもよりますが、約3ヶ月間、コンピューターで温度・湿度を管理しながら行われます。塩漬けされただけの後足は、多くの水分を含んでいます。最初は湿度を高く保ち、温度は低く設定。これを少しずつ、温度は上げ、湿度は下げる、という作業を行います。

ポス・サラードが終わると、ハモン・セラーノは自然乾燥室に移されます。ここでも、マエストロ・ハモネロの技術が要求されます。出来上がりの品質を大きく左右するのが、この期間の温度、湿度、気圧です。その名の通り、自然乾燥室では窓の開閉によってこれらを調節することが多いため、そのタイミングを見計うためにはマエストロたちの経験がとても重要です。

なお、自然乾燥室は気候条件に恵まれた地域におかれていることが必須であることは言うまでもありません。通常これらの乾燥室は、イベリア半島南西部に位置し、その海抜も条件のひとつになっています。この自然乾燥室で費やす時間は、約6ヶ月。もちろん現在の技術を使えば、人工的に温度、湿度を管理してこのプロセスを早く終えることも出来ます。このように仕上げれば、程よい品質と味を保った均一的な商品が出来上がりますが、当然のことながら、伝統的な製法で仕上げたハモン・セラーノの味にはおよびません。

最後の工程は熟成です。
この期間は、ハモン・セラーノの等級、重さなどによりますが、通常3ヶ月から12ヶ月です。熟成はゆっくりと行われ、温度は常に8℃から10℃に保たれています。そして、この期間に独特の香りが凝縮されてゆくのです。

最終的に製品として出荷されるためには“カーラ”と呼ばれる作業が必要です。カーラとは、熟成が終わり出荷前に行われる品質検査です。これは、細く削った馬や牛の骨を使い(現在ではプラスチック製の道具を使用)ハモン・セラーノの決められた位置に刺しその先端のにおいをかぐことで十分に熟成されているかを判断するものです。カーラを行うのは、経験豊富で鋭い嗅覚を持った職人です。

この段階で、十分な熟成がなされているかどうかを判断し、合格したハモン・セラーノだけに各々のラベルを取り付け、商品として出荷します。

■商品紹介:ハモン・セラーノ