2023/02/10 18:45



よだれ鶏 口水鶏(コウシェイヂィ)のルーツ

よだれ鶏は、川菜(チョワンツァイ、四川料理)の一つで中国名は口水鶏(コウシェイヂィ)。茹でた鶏肉に唐辛子や花椒・ラー油の入った辛いタレで食べる冷菜です。口水鶏の口水は“よだれ”を意味することから日本では“よだれ鶏”と呼ばれ人気が高まっています。

口水鶏は、白切鶏(パイチエヂィ)または白片鶏(パイピエンヂィ)と呼ばれている茹で鶏の一種。首や内臓、足先を外した丸鶏をネギやショウガなどと共に茹でて調理し、皮目を上にして皿に盛り付けて薬味やタレなどを掛けて仕上げる前菜です。

これが何故、“よだれ”を意味する口水という単語を使った口水鶏と呼ばれるようになったのかということには理由があります。四川省出身で中国の近代文学・歴史学の先駆者とされている郭沫若(かくまつじゃく、1892~1978年)がその著書の中で、「少年時代に故郷の四川省で食べた真っ白な白切鶏と、赤い海椒(ハイジャオ、唐辛子のこと)が入った辣油は、今思い出してもよだれが出てくる。」といったことを書き、それを由来として口水鶏と名付けられたとされています。

中国料理の分類と特徴

中国は国土が広大なので寒暖の差、乾湿の差、沿岸部、内陸部など様々な気候風土が存在します。長い歴史の中で培われた風俗や文化が交流することで各地方の料理もそれぞれが独自の発展を遂げてきました。中国にも日本の五味(甘い、酸っぱい、塩辛い、苦い、辛い)と同じように五味(ウウェイ)という味付けの指標があり、甜(ティエン・甘い)、鹹(シエン、塩辛い)、酸(ソワン、酸っぱい)、辣(ラァ、辛い)、苦(クゥ、苦い)といった要素を全て混ぜ合わせて仕上げることが良いとされています。

中国料理は細分化すると数え切れないほど多くの地方料理が存在しますが、個性を基に大別すると北方料理、上海料理、湖南料理、福建料理、広東料理、四川料理の六系統に分類することができます。(これとは別に山東料理、江蘇(こうそ)料理、広東料理、四川料理、のことを中国四大料理(四大地方菜)と呼んだり、四大料理に安徽(あんき)料理、浙江(せっこう)料理、湖南料理、福建料理を加えて中国八大料理(八大地方菜)と呼んだりします。)

北方料理には、宮廷料理に代表される北京料理や山東料理、河北料理、河南料理、山西料理などがあり、黄河以北の厳しく乾いた地域で採れる小麦を使った麺料理が発展しました。

上海料理には江蘇料理や安徽料理、浙江料理、河西料理などがあります。この地方は温暖な気候に恵まれた穀倉地帯で海に面していることもあって食材に恵まれていたため洗練された料理が生まれると共に、浙江省の紹興のような老酒の産地もあります。

福建料理は福州、泉州・厦門、台湾などの広範囲を指します。それぞれの気候や言語も異なる程なので料理にも違いが見られますが、海沿いの地域で生まれた調味料や鮮度を重視する料理が共通する特徴だといえます。ちなみに台湾料理は福建料理を土台とし、後に独自の発展を遂げたといわれています。

広東料理は中国の南方に位置しているため気温が高く雨が多いので多湿な亜熱帯気候または熱帯気候に属する地域のものです。そのため食材が豊富にあり、広東を中心に東江、潮州などでも薄味で淡泊な料理が発達してきました。

辛いことで有名な四川料理の意外なルーツ

四川料理は、中国四大料理の一つに数えられるもので中国では一般的に川菜(チュアンツァイ) と呼ばれ、四川省の料理だけでなく、重慶市や雲南省、貴州省など周辺地域で同じような特徴がある料理も四川料理に含むこともあります。

辛い料理の代表格のようなイメージが定着している四川料理ですが、全てが激辛料理という訳ではありません。成都には昔、都から派遣されてきた役人達がいたこともあって淡泊な味付けの高級な宴席料理も存在しています。

しかし庶民の間では、唐辛子や胡椒のような辣(ラァ)と呼ばれるヒリヒリするような辛さと、山椒のような麻(マァ)と呼ばれる痺れを感じるような刺激を効かせた麻辣味を強烈に加えた料理が親しまれているもの事実です。

それは、四川省は内陸部に位置し農業に適した土地は盆地になっているので晴れる日が少なく、雨と霧が多い高温多湿だからだと考えられています。夏は蒸し風呂のような暑さになり、昔から関節炎などで悩む人が多かったり、発汗作用のある料理を食べることですっきりさせて体調を整えようとしたのかもしれません。

薬膳料理の知見に基づいて、紅油(辛油)や椒麻(花椒)、麻醤(すりごま)などの様々な調味料や香辛料、漢方薬、香味野菜や調味法を組み合わせて複雑な味を生み出し発展したため、その多彩さは「百菜百味(パイツァイパイウェイ、百の料理に百の味がある)と称されるほどです。

中でも四川料理に欠かせない花椒(ホワジャオ)と胡椒(フウジャオ)、海椒(ハイジャオ、辣椒・ラァジャオ)は特に三椒(サンジャオ)と呼び、麻婆豆腐や水煮牛肉など様々な料理に使われています。

花椒は、日本の山椒と同じミカン科サンショウ属ですが華北山椒(カホクザンショウ)という別の種類。山東省や河南省、陝西省など広い範囲で採れるため紀元前から各地で利用されており、四川省のものが良質とされています。また漢方では蜀椒とも呼ばれ健胃、鎮痛、駆虫作用などの薬効があるとされてきました。

胡椒は5~6世紀頃にシルクロードによってインドから伝わってきたとされる香辛料です。

そして、中南米原産の唐辛子は大航海時代以降になってから世界中に広まり、中国には17世紀以降に広まっていったとされています。現在、中国では唐辛子のことを辣椒(ラァジャオ)と呼びますが四川省では海椒(ハイジャオ)とか番椒(ファンジャオ)と表現します。海の無い四川省では海や番という文字を使った単語は外来品を指すことが多いらしく、長い歴史を刻んできた中国からすると唐辛子が入ってきたのは最近のことのような感覚なのかもしれません。

もともとあった花椒やネギ、ショウガ、ニンニク、芥子菜などを使った料理が存在し、そこに胡椒が使われるようになっていき、最後に唐辛子が加わり三椒が揃ったことで特に辛みの強い料理が発達したのでしょう。

■商品紹介:よだれ鶏