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2023/02/17 12:03
古代から発展してきたコーカサス地方
ジョージアは黒海とカスピ海に挟まれたコーカサス地方に5000メートル級の山が連なる大コーカサス山脈(ロシア語ではカフカス山脈)の南麓にある国です。
国土は約7万㎢と北海道より少し小さく、その90%が山地です。人口は約400万人で、ジョージア系民族を中心にアゼルバイジャン系、アルメニア系、ロシア系、オセチア系などの民族が住んでおり18もの方言が存在します。
ジョージア系の民族は黒海の東岸で紀元前12世紀にコルヒス王国をつくったコルヒス人と南西のタオ地方でディアオヒ王国をつくったディアオヒ族がルーツという説が有力です。
ジョージアがあるコーカサス地方は古代から人類にとって重要な歴史を刻んできました。例えば南東部にあるクヴェモ・カルトリ州のドマニシ洞窟では、約180万年前からユーラシア大陸最古のホモ・ゲオルギクス(直立人)が住んで石器を使っていたことが解っています。
また、紀元前4000年頃になると広い地域で金属器が作られるようになり、先史時代の金属精錬発祥地のひとつとされています。
特にコルキス人はヨーロッパに未だ金属の精錬や鋳造の技術がなかった時代に黄金製品を作る事ができたため、古代ギリシャでも知られていました。
ギリシャ神話の『金の羊毛皮』でコルキス王女のメデイアが登場したり、古代ギリシャ劇の『鎖に繋がれたプロメテウス※』ではコーカサス地方の岩山が登場したりするほどで、山や丘、岩と関連するギリシャ語のカウカソスがコーカサスに変化したという説があったり、紀元前8世紀から紀元前3世紀にウクライナを中心に活動していたイラン系遊牧騎馬民族のスキタイ人がこの地域をクロイ・カシス(氷・輝き)と呼んでいたものが変化してカウカソスになったという説があったりします。
いずれにしても、コーカサス地方にはユーラシア大陸で最も古くから人が住み着き、高度な文明が発展し、遠方の国や民族との交流も盛んに行われてきたのは間違いありません。
※人間に火を与えたり知恵や技術を授けたりしたとされているプロテメウスがゼウスによって鎖でつながれた岩山がコーカサス地方にあったと伝えられています。
ジョージア語で「美味しい!」はゲムリエリア
ジョージアには18の方言があったり地域によって民族衣装が異なったりして、それぞれ独自の文化を守っている面があります。しかし食材には極端な地域差がなく、郷土料理はあるものの似通った料理を食べています。
最も特徴的なのはコリアンダーが入る料理が多いことで、スパイス(パウダー)は調味に、ハーブ(生葉)は料理のトッピングに使います。その外にはソースにクルミや豆を入れたり、ザクロやイチジク、かんきつ類を使ったりすることが多く、この国独特の料理もあれば中東の料理と似ているものも多数あります。
例えば前菜ではプハリ(スパイスと野菜とハーブの混ぜ物)、バクラジャンナヤ・イクラ(キャビアに似せたナス料理)、ヤルパフ・ドルマスィ(仔羊肉入りライスのブドウの葉包み)などが挙げられます。
スープではバジェ(クルミのソース)やチヒトゥマ(コリアンダー入り鶏のスープ)、スパス(ヨーグルトと麦のスープ)、ヤイニ(野菜とアンズと牛肉のスープ)などがあり、特にバジェは鶏肉や魚に掛けたりパンをディップしたりします。
サラダは、ムジャワイ・コムポスタ(キャベツとビーツの酢漬け)やロビオ・サツィヴィ(サヤインゲンのクルミソース和え)、ロビオ(金時豆と野菜のサラダ)など。季節の野菜にコリアンダー、クルミや豆を合わせます。
メインディッシュで最も重要なものはヒンカリです。神聖な儀式などでも食べられる大きな水餃子のようなもので、生地を包む皮のひだの数によってその美しさが競われると言います。
また、日常的に食べられている料理には、丸鶏を捌いて骨を抜いて焼き上げるタバカ、ラムを串焼きにするシャシリュクがあり、これらにバジェ(クルミのソース)を掛けることもあります。
鶏肉を使った料理には、シュクメルリ(牛乳とガーリックのチキンシチュー)やサツィビ(鶏肉のクルミ入りガーリックソース煮)、トマケリ(タバカのプラムソース掛け)、チャホフビリ(鶏肉とネギのトマトソース煮)などをはじめ、家庭に伝わる料理も含めると数えきれないほどの数になるといいます。キリスト教徒が主なので食べられないものはありませんが、特に鶏料理が多いのは、生育が早くて狭い菜園などでも飼育することができた鶏は昔から手に入りやすかったことに由来するようです。
ジョージア伝統の宴会(スプラ)では特別に手を掛けて作るこれらの料理を何種類も用意するのがしきたりで、メニューの中には豆料理を入れるという決まりがあります。
スプラの主催者から選ばれたタマダ(宴会の司会者)の進行で料理が出てくるたびに一杯のワインが付き、その度に乾杯をして夜更けまで共に過ごすということからも、ジョージアの人びとが家族だけでなく他人や先祖たちとも繋がり絆を深めることを大切にし、その役割をスプラが担っているということが良くわかります。
神様が自分のためにとっておいた土地
ジョージアには昔から語り継がれている伝説があります。
『神様がこの世を作ってから8日目のこと。人間たちを幾つかの民族に分け、それぞれに土地を選ばせて自分の国を作らせた。神様は皆が落ち着いたのを見て家に戻ろうとした帰り道、木陰でテーブルを囲んで飲み食いしているジョージア人に出会った。ジョージア人たちは美しい世界を創った神様に感謝し、神様のために乾杯していたという。
そのようなことをする民族は他には居なかったので神様は感激し、最も天国に似ているので自分のために取っておいた土地を授けることにした。』といったような内容です。
この言い伝えから、ジョージア人は信仰心が強いということや友人たちと過ごす時間がもたらす絆をとても大切にするということ、そして神様が自分のものにしたいと思うほど豊かな自然や眺望が美しい国だということがわかります。
世界最古のワイン生産地
ジョージアの西側は黒海に面した亜熱帯気候、内陸部は地中海性気候、標高の高い地域でも山脈の影響で比較的温暖な気候に恵まれています。そのため古代から岩山にはアイベックスや野生の羊や山羊、峡谷には熊や鹿、森にはイノシシやヤマウズラ、ライチョウなどが棲み、肥沃な土地が多く、野草や果実や木の実など豊富な食糧がありました。約8,000年前の新石器時代には本格的な定住がはじまり小麦やライ麦などの穀物栽培※が始まりました。
同時期に牛や豚などを家畜にしはじめたことでチーズやヨーグルトが生まれ、ブドウをはじめとする果樹の栽培も行われたことでジョージアワインの祖となる飲み物がクヴェヴリという素焼きの壺でつくられるようになりました。これが「世界最古のワイン生産地」としてジョージアワインがユネスコ世界無形文化遺産に登録された理由です。
※コーカサス地方は小麦やライ麦の発祥地の一つであるという説があります。
独自の伝統と文化を重んじる人々
ジョージアは東側に広がるアジア諸国と西側に広がるヨーロッパ諸国が交わる場所に位置し、豊かな自然に恵まれたこともあって3,000年以上前にジョージア系の王国が建国されました。ジョージアを含むコーカサス地方は「文明の十字路」と呼ばれ、アジアとヨーロッパを結ぶ貿易や交通の要所として重要な役割を担ってきました。
そのため昔から様々な民族や文化や宗教が入り混じり、共存していました。宗教や人種を区別し、万人を受け入れる習慣は「客人は神様からの遣い。」とか「友にはワインを。」といった諺に表れています。一方で、ジョージアは幾度となく大国の支配下に置かれ、永い間農業に適した貴重な土地は遠方に住む貴族の所有地にされたことで重税や法外な小作料を課せられ苦しい生活を強いられてきました。
このような歴史を歩んできたからこそ、ジョージア人は言語や文字、宗教や民族衣装、伝統音楽や伝統舞踊、料理や食習慣などあらゆる面でロシア化せず独自の文化を守り発展させてきたとも言えます。
宴会の意義と男の料理
ジョージアはヨーロッパで二番目にキリスト教を国教(ジョージア正教)とした国であり、大国に支配されていた時期もショージアの文化を守ってきた歴史があります。そのため年間を通じて祭日や個人の集いがとても多く、その都度スプラ(Supra)と呼ばれる宴会が催されています。
スプラの目的は人々がワイン、パン、乾杯、歌声とともに一緒に時間を過ごすことで家族だけでなく他人や先祖たちとも繋がり絆を深めることです。そのためスプラには儀式としてルールが地域ごとにあり、宴会の進行役を務める人はタマダと呼ばれ重要な役割を担います。タマダのことは『神様が自分のために取っておいた土地』で神様とやり取りした人物としても登場するほどです。
その他にもジョージアならではの特徴的な慣わしとして、ツヴァディ(焼肉)やバストゥルマー(漬け込み肉の焼肉)をはじめとする伝統的な郷土料理は男性が習い、スプラの時には男性も腕を振るうということがあります。
中でもお正月は最も重要で、大晦日になるとお盆に乗せたゴジナキというお菓子を持って家の周りを練り歩いたり、朝早くから近所の家々をあいさつ回りしたり、夕方になるとテーブルを囲んで歌声と共にご馳走を食べたりするしきたりが根強く残っています。
民族音楽と民族衣装
スプラに欠かせないワイン、パン、乾杯、歌声。
コーカサスの山岳地方に伝わる伝統的な多声音楽(ポリフォニー)は紀元前から歌い継がれ、スプラでは調和のとれた聖歌を歌い民族舞踏を踊ります。
民族衣装には地域によって様々なものがありますが、現在、結婚式やお祝いの時など正装として男性が着用する衣装はチョハ、女性用はカバというものです。チョハは9世紀に周辺国が覇権を争う舞台となったこの地で、国民が常闘の準備を整えていたことに由来しています。
身近な食材に支えられた郷土料理
豊富な食材に恵まれたこの国には伝統的な郷土料理が数多くあり、中でもトウモロコシを使ったムチャディというパンは人びとにとって無くてはならない食べ物です。
また小麦粉を使ってトネというレンガ造りの釜で焼くデダス・ブリ(お母さんのパン)も特別なものです。昔は家を新築するとき最初に作るのがトネであり、お嫁さんが家に入る時はパンの元にするパン種を持参するのがならわしでした。
そのほかにも小麦粉を使ったハチャプリというパンもプレーンタイプだけでなく、チーズをのせたものや、チーズを包んだものなど様々です。チーズをのせたハチャプリを舟形に焼いてから生卵を乗せ、食べる時に卵とチーズを混ぜて食べるアジャリアン・ハチャプリは、海外では珍しく半熟卵を食べる人気のある料理です。
■商品紹介:シュクメルリ